兵庫県 姫路市
姫路市を歩く——白漆喰の大天守から生姜醤油のおでん、甲乙丙の住所まで
JR姫路駅の北口から正面に見える大天守、海抜92メートルという高さ、お菊井戸の言い伝え、生姜醤油で食べるおでんや駅の黄色い中華麺、白浜町の甲乙丙の住所まで、姫路市の町歩きをたどります。
公開 出典 31件

JR姫路駅の北口を出ると、通りの正面に姫路城が見えます。駅と城を結ぶ大手前通りは幅50メートル、延長670メートル。改札を抜けた人が地図を開く前に、その日の目的地がもう視界に入っているという造りです。
城が立つ丘は姫山と呼ばれます。兵庫県立歴史博物館の解説によれば、播磨国風土記には日女道という表記があり、ある神の船から蚕子(ひめこ)が落ち、それが日女道丘(ひめじおか)になったと書かれています。この丘が現在の姫山にあたるとされ、日女道丘が姫道、姫地を経て今の姫路になったとされています。
白漆喰の壁と扇の勾配、海抜92メートルの大天守
姫路城が白鷺城と呼ばれるのは、外壁の仕上げによります。屋根瓦の目地まで白漆喰を塗り込める白漆喰総塗籠という手法で、その輝くような白さが鳥の白鷺に例えられました。黒を多用していたそれまでの城に対し、戦国時代の終わりを告げる新しい時代の美しさを表したとされます。
2009年10月に始まった保存修理工事を終え、2015年3月から大天守の一般公開が再開されました。施工した鹿島建設の説明では、屋根の目地漆喰が盛り上がって見えるため、角度によっては真っ白に見える姫路城ならではの装飾になったとされています。白すぎるという声が上がったのも、この頃です。
高さは足元から数えると印象が変わります。姫山の標高45.6メートルに石垣14.85メートル、建物31.5メートルを足すと、大天守は海抜92メートル。その建物を支えるのは東西2本の心柱で、高さ24.6メートル、根元の直径95センチメートル、先端は42センチメートルです。
登城路では石垣の形も見てください。上にいくほど反り返る積み方は、開いた扇の曲線に似ていることから扇の勾配と呼ばれ、敵に石垣をよじ登らせないための工夫でもありました。真下に立って見上げると、どこから反りが始まるのかが分かります。
三の丸から二の丸へ通じる大手口を固めるのが菱の門です。柱の上部にある冠木に菱の紋が打たれていることから名づけられ、城内で最も大きな門として安土桃山時代の様式を残しています。城内で最も高い約23メートルの石垣の上に建つ帯の櫓は、内部の意匠から茶室的な用途があったのではないかとされます。
お菊井戸の皿数えと、時代劇が選んだ坂道
城内のお菊井戸には、播州皿屋敷として知られる話があります。永正元年(1504)に小寺氏の当主が没し、若い則職が跡を継ぐと、翌年に重臣の青山鉄山が一族の暗殺を企てたと伝わっています。召使いのお菊がこれを則職に通報し、計画は防がれました。
ところが鉄山方の町坪弾四郎が、お菊への恋情から家宝の皿を隠し、罪を着せて井戸に投げ込んで殺したという言い伝えがあります。その夜から井戸で皿を数えるお菊の声が聞こえたとされ、この話が皿屋敷と呼ばれる由来になったと伝えられています。
西の丸からさらに奥へ進み、天守に近付くルートの途中には、将軍坂と呼ばれる坂道があります。「暴れん坊将軍」などの時代劇の撮影でよく使われたことから、この愛称が付きました。城の中に、撮影の都合でできた呼び名が残っているわけです。
姫路で時代劇が撮られるのは偶然ではありません。2001年9月に設立された姫路フィルムコミッションは、2002年度に「武蔵 MUSASHI」「ラストサムライ」の撮影で88件のロケを実現し、2013年度に100件を突破、2015年度には過去最高の165件を記録しました。累計は1900件を超え、時代劇の聖地と呼ばれています。
主な撮影地は姫路城、書写山円教寺、好古園、亀山本徳寺の4大ロケ地で、撮影のしやすさと文化財関係者の理解や協力が評価されてきました。うち好古園の名は、酒井家が元禄5年(1692)に開校した藩校の好古堂に因むと説明されています。好古堂は天保13年(1842)に現在の好古園入口付近へ移っていました。
園内は、発掘調査で確認された屋敷割や通路の地割を活かした9つの大小庭園群と、アプローチ樹林帯、広場で構成されると説明されています。借景は、世界遺産であり国宝でもある姫路城そのものです。
浴衣で詣でる夏と、千姫が練り歩く春
姫路お城まつりの第1回は、終戦後間もない1948年(昭和23年)に行われました。戦災復興の気運を盛り上げる目的で始まり、いまも姫路市を代表する伝統行事です。公募で選ばれた市民が江戸時代の衣装をまとって大手前通りを練り歩く大名行列は、姫路藩酒井家の参勤交代を参考に当時の隊列を再現しています。
同じまつりでは、千姫輿入れ行列も行われます。姫路城で暮らした千姫の輿入れを再現するもので、姫路城のアンバサダーが扮する千姫と地元の子どもたちが華やかに練り歩き、多くの観客が撮影する場面になっています。
夏は浴衣です。姫路ゆかたまつりは長壁神社の例祭から始まったといわれ、1742年5月、当時の姫路城主の榊原政岑が越後高田へ移る際に長源寺の境内へ祠を造り、城内の長壁神社を遷して遷座祭を開いたことが起源と伝わっています。
このとき奉仕する人々は、あまりにも事が急で式服を作る暇がなく、浴衣を着て参加したといいます。以後、毎年参拝する人々がそれにならって浴衣を着るようになり、ゆかたまつりと呼ばれるようになったという話です。江戸時代から約280年続く、姫路の夏の風物詩です。
城をめぐったあとに訪ねたいのが播磨国総社です。姫路市の説明では、正式名称は射楯兵主神社で総社伊和大明神とも呼ばれ、本殿の後ろに播磨国内の神様がすべて祭られているため総社と呼ばれるとされています。中世の赤松氏や歴代の城主に信仰された社です。
境内には、室町時代に赤松氏が寄進した釣鐘と、姫路城主の榊原忠次が寄進した南参道の石鳥居があります。61年ごとの総社一ツ山祭は国家の変事や慶事に1基の山をつくって神々を祭るもので、21年ごとの総社三ツ山祭とともに奇祭として知られます。
書写山の舞台と、広峰山で受けた神託
書写山圓教寺の摩尼殿には、京都の清水寺のように切り立った斜面に面した舞台があります。山上の木立の中で、足元が急に落ちていく場所に建物が組まれていると知ってから見上げると、柱の長さが気になってきます。
摩尼殿とともに立つ食堂(じきどう)の内部は、ハリウッド映画「ラストサムライ」のシーンの撮影に使われました。もう一つの撮影地は三之堂のひとつ常行堂で、阿弥陀仏の名を唱えながら本尊を回る常行三昧のための道場です。監督はこの場所を、人工の入らない、自然の中にたたずむ建物との調和した時代的な雰囲気を理由に選んだといいます。
広峰山には廣峯神社があります。公式の由来では、天平5年(733)に遣唐使の吉備真備が帰朝の際に広峯山系の白幣山へ登って牛頭天王の神託を受け、天皇に奏上して翌年に社殿が造営されたと伝えられています。
真備は唐で学んだ陰陽道を導入し、素戔嗚尊を牛頭天王として配したと伝わります。972年(天禄3年)には、現在地である広峰山の山頂へ本殿が遷されました。神社では「峯相記」の記述を引き、京都の八坂神社の本家にあたる元祇園としています。
生姜醤油の小皿と、黄色い中華麺のそば
姫路ではおでんを生姜醤油につけたり、かけたりして食べます。姫路観光ナビによると、これはごく限られた地域の食べ方で、昭和初期に姫路の浜手地域で甘辛い関東煮に生姜醤油をかけ、味を調整したのが始まりではないかと言われています。
その後、関西風の薄味のおでんが登場すると、刺身のように小皿の生姜醤油につけて食べる人も多くなりました。姫路おでんという名が付いたのは2006年6月で、それ以前は特に名前のない、地元で一般的な食べ方だったと説明されています。
姫路駅のホームには、えきそばがあります。まねき食品の公式サイトには、昭和24年10月19日にこの名が付けられたと記されています。戦後、小麦粉が統制品で入手困難だったため、統制品ではないこんにゃくに着目し、そば粉とこんにゃく粉を混ぜて試作したという経緯です。
うどんは時間がたつと伸びて長持ちしないため、かんすいを入れた黄色い中華麺にたどり着き、これに和風だしを合わせました。まねき食品が一見ミスマッチの商品と説明する取り合わせが、駅の名物として続いています。
朝は喫茶店です。姫路市を中心とした播州地区では、アーモンドバターを塗って焼いたアーモンドトーストがモーニングの定番として定着しています。姫路観光ナビが伝えるところでは、2010年8月にテレビ番組で取り上げられ、この地域にしかないご当地グルメとして認知度が急上昇しました。
土産に選ぶなら玉椿です。1702年創業の伊勢屋本店の説明では、天保年間、11代将軍徳川家斉の娘の喜代姫と姫路藩主の酒井忠学の婚礼という慶事をきっかけに生まれ、家老が最も気に入って名づけたとされます。黄身餡を薄紅色の求肥で包み、椿の花に見立てた菓子です。甘さの中に塩気を効かせた塩味饅頭も、赤穂や姫路など播州地方に古くから伝わる菓子だと紹介されています。
飾磨から北へ延びた馬車道と、兵器庫だった赤レンガ
明治9年、播磨の飾磨港、いまの姫路港と、49キロメートル北の生野鉱山を結ぶために銀の馬車道が造られました。道は飾磨港を起点に姫路の街を抜けて北へ進み、姫路城の方向へ一直線に向かう区間もあります。生野から北へさらに24キロメートル続く鉱石の道と合わせると、全体では73キロメートルの産業道路になります。
姫路市立美術館の赤レンガの建物は、もともと軍の施設でした。姫路市の資料によれば、東西棟は明治38年頃に第十師団の兵器庫として建てられ、南北棟は大正2年の増築で、陸軍技手の宮本平治が設計しました。煉瓦造2階建、日本瓦葺の切妻屋根をL字型に接続した配置です。
昭和22年には姫路市庁舎として改装転用され、昭和55年の市役所移転後に保存改修工事が行われ、昭和58年4月に姫路市立美術館として開館しました。兵器庫、市庁舎、美術館と役目を変えながら、同じ煉瓦が建ち続けています。
姫路には白なめし革の技法も残ります。薬品を使わず、水と塩と菜種油だけで皮をなめす製法で、平安時代に編纂された法典「延喜式」にも類似の革の製造方法が記されています。乳白色で柔軟かつ強く、武具や馬具から鞄や靴にも使われてきました。近代的な革なめし技法の発明と発展で一時は消滅の危機にありましたが、姫路市の地域有志の努力で復活し、いまも伝統的な方法で製造されています。
名古山霊苑の仏舎利塔は、昭和29年(1954)にインドのネール首相から人類永遠の平和の願いを込めて贈られた仏舎利を安置するため、昭和35年(1960)に名古山の山頂へ建てられたドーム型の塔だと説明されています。
兵庫縣姫路護國神社は昭和13年(1938)4月27日に竣工しました。神社の由緒は、終戦後の昭和21年(1946)8月28日に維持継承をはかるため白鷺宮と改称して危機的状況を脱し、サンフランシスコ講和条約の発効後、昭和29年(1954)に再び護國神社と復称したとしています。祀るのは播州・但馬地区出身の56,988柱です。
甲・乙・丙の住所と、別れ際に覚える播州弁
姫路市白浜町の住所には、甲、乙、丙が付きます。西から順に甲が松原地区、乙が中村地区、丙が宇佐崎地区で、明治初頭に旧松原村、中村、宇佐崎村の3村が合併して白浜村ができたとき、旧村ごとに符号が振られたことに由来します。
この3つの旧村は、灘のけんか祭りの氏子地区にあたります。祭りは松原八幡神社の秋季例大祭で、公式サイトによると毎年10月14日と15日の両日に行われ、3基の神輿をぶつけ合い、7台の絢爛豪華な屋台の練り合わせがあります。郵便の宛名に書く一文字が、祭りの組分けを今も伝えているわけです。
土地の言葉も持ち帰りたくなります。播州弁の解説では、お金を「つぶす」が両替する、「いぬ」が帰る、「ほかす」が捨てる、「なおす」が片付けるという意味で挙げられています。動詞に「たった」が付くと尊敬の言い方になるとも書かれていて、先生あっちにおったったで、のおったったは居られた、いったったは行かれたという具合です。
帰りは大手前通りを駅へ戻ります。幅50メートルの道の正面には、さっきまで見上げていた白漆喰の大天守があり、振り返るたびに白鷺に例えられた白さを確かめられます。この一本道が、姫路の旅の始まりと終わりを同じ景色でつないでいます。
姫路市クイズ
全3問Q1
姫路城大天守の海抜は約92m。建物の高さ31.5mに足されているのは?
残念、不正解 正解は ア「姫山の標高と石垣の高さ」
姫路城公式サイトによれば、姫山の標高45.6メートルに石垣14.85メートル、建物31.5メートルを足して、大天守は海抜92メートルになります。天守が高くそびえて見えるのは、建物だけでなく山と石垣の分。城下から見上げるときは、足元の山ごと数えてみてください。
Q2
姫路駅の名物「えきそば」の麺の特徴は?
残念、不正解 正解は ア「かんすい入りの黄色い中華麺」
まねき食品の公式説明では、時間がたっても伸びにくい麺を求めてかんすい入りの黄色い中華麺にたどり着き、和風だしと合わせた「一見ミスマッチの商品」になったとされます。見た目は中華そば、味は和風だし。駅のホームで確かめてみて。
Q3
姫路市白浜町の住所に付く「甲」「乙」「丙」は、何に対応している?
残念、不正解 正解は ア「灘のけんか祭りの氏子である旧村の区割り」
神戸新聞の記事によると、白浜町では西から順に甲・乙・丙が並び、それぞれ松原・中村・宇佐崎という「灘のけんか祭り」の氏子地区にあたる旧村に対応しているそうです。住所表示がそのまま祭りの地図になっています。町を歩いて表示板を探してみて。
出典
この記事は次の資料にもとづいて書いています。
- 1.大手前通り再整備の事業内容 | 姫路市役所
- 2.『播磨国風土記』にあらわれる郡と地名|兵庫県立歴史博物館
- 3.姫路城とは?国宝で世界遺産、白鷺城の愛称で親しまれるお城の歴史と見所を紹介 SKYWARD+
- 4.姫路城大天守 保存修理工事完了!! 鹿島建設株式会社
- 5.姫路城の規模 | 姫路城公式サイト
- 6.城の楽しみ方 | 姫路城公式サイト
- 7.播州皿屋敷 姫路のお菊井戸 兵庫県立歴史博物館
- 8.姫路城と江戸城には共通点が!ロケで使用される理由は?実際に確認してみた
- 9.姫路フィルムコミッション20年、ロケ1900件超す ラストサムライ、るろうに剣心…「時代劇の聖地」
- 10.由来とあらまし | 姫路城西御屋敷跡庭園 好古園
- 11.「姫路お城まつり」閉幕 伝統とにぎわいの3日間
- 12.「姫路ゆかたまつり」開催 姫路市
- 13.姫路・中心街で「姫路ゆかたまつり」 河内家菊水丸さんのステージも
- 14.播磨国総社 | 姫路城公式サイト
- 15.【兵庫県・姫路市】国宝・姫路城と「ラストサムライ」ロケ地の書写山圓教寺 地球の歩き方
- 16.『ラストサムライ』『軍師官兵衛』のロケ地、『書写山 圓教寺』/兵庫県姫路市
- 17.ご由来 | 廣峯神社
- 18.姫路おでん|グルメ|【公式】姫路観光ナビ ひめのみち
- 19.生姜醤油で食べる「姫路おでん」!歴史・発祥とおすすめ店10選も<兵庫・2023>
- 20.えきそば|まねき食品株式会社
- 21.【姫路名物】アーモンドバター / トースト / モーニング|グルメ|姫路観光ナビ
- 22.姫路のソウルフード「アーモンドトースト」って?発祥のお店に“おいしい食べ方”を聞いてみた
- 23.創業300年!お茶に合う和菓子。姫路の銘菓「玉椿」と「塩味饅頭」
- 24.日本遺産「播但貫く、銀の馬車道 鉱石の道」 日本遺産ポータルサイト(文化庁)
- 25.姫路市立美術館(旧第十師団兵器庫) | 姫路市
- 26.白革~ピュアホワイトな革を目指して~ | 株式会社山陽
- 27.名古山霊苑仏舎利塔の由来 | FAQ | 姫路市
- 28.由緒 | 兵庫縣姫路護國神社
- 29.なぜそうなる? 甲、乙、丙…住所表示の謎 「灘のけんか祭り」舞台の姫路市白浜町
- 30.灘のけんか祭り・松原八幡神社秋季例大祭
- 31.【播州弁】例文とシーンで解説。お国言葉を文字にしたら難解だった件
この記事は、出典で確認できた事実をもとに AI の補助を受けて構成し、公開前に出典との照合を行っています。詳しくは編集方針をご覧ください。